2023年3月、『新しい成田空港』構想検討会が”成田国際空港ワンターミナル構想”について提言を行いました。(以下URLは成田国際空港会社の公式リリース)
https://www.naa.jp/jp/airport/pdf/nna_int_repo_01.pdf
私自身、2022年9月に”ワンターミナル構想”をステップを予想して記事を作成していました。
予想がどの程度的中していたか自己分析すると、【だいたい当たっていた】という印象です。
具体的には、
- 貨物ターミナルの移転
- 第一旅客ターミナルの取り壊し
の2点です。
逆に予想から大きく外れていたのは、
- 全ての既存ターミナルの取り壊し(第二旅客ターミナル・第三旅客ターミナル含む)
- サテライトビルの新設は無し
つまり、今回の提言は、現在建っている建物はほぼ全てを解体し、新たな成田国際空港を構築するという大胆なものであることです。
今回の記事では、具体的に成田空港のワンターミナル構想がどのようなものであるのかをまとめました。尚、このワンターミナル構想はあくまでも提言に過ぎず、建設着工や予算確保などの具体的なプロセスの一環ではありません。実際のところ、提言されたプランが全て実行される場合、かなりの予算編成が必要になると予想されます。よって、この提言は、”もっとも理想形”を絵に描いたものと考えます。
旅客ターミナルビルを全て建て替え
現在、成田空港には3つの旅客ターミナルが存在します。
- 第一旅客ターミナル:1978年に建てられたビル。主にANAなどのスターアライアンスの利用する南ウイング、主にスカイチームが利用する北ウイングにて構成されます。開港当時から増床やリニューアル工事が行われ、現在のレイアウトに至っています。
- 第二旅客ターミナル:1992年に建てられ、主にJALなどのワンワールドが利用しています。
- 第三旅客ターミナル:2015年に建てられ、LCCが利用しています。
最も最初に建てられた第一旅客ターミナルは40年が経過し、第二旅客ターミナルは30年が経過しています。老朽化が見られることはもちろんのこと、ワンターミナル構想につながったきっかけは、それぞれのターミナルビルのレイアウトに問題を抱えていることです。
成田空港は内陸に存在する空港であることから、空港の拡張余地がありません。そのため、第二旅客ターミナルはB滑走路側に面しており、A滑走路を利用する大型機は移動距離が長くなります。更に、成田空港の就航の増えているLCCに至っては、仮にA滑走路を離発着に使用する場合は、最も長い距離を移動することになります。そのため、今回のワンターミナル構想では、老朽化した第一旅客ターミナルを建て替えるだけではなく、空港立地上、不利のある第二旅客ターミナル・第三旅客ターミナルの機能を中央部に移転させる構想も含まれています。
貨物ターミナルの移転および建て替え
成田空港の貨物取扱量は、金額ベースであれば日本最大の貿易港です。(※航空貨物は高価なものが多いため)ANAやJALといった日本のフラッグキャリアだけではなく、Fedex、DHL、UPSといった貨物専業エアラインも就航しています。一方、貨物専業エアラインは中国やフィリピンなどの東アジア・東南アジアにハブ空港を構え、北米とアジアの需要をこのハブ空港でコントロールしています。本来であれば、北米と東南アジアの中間地点としての立地を生かして成田空港がハブ空港になり得る可能性がありましたが、貨物ターミナルの拡張余地がないことから多くの貨物専業エアラインに見放されてしまっている状況です。
私自身、成田空港の貨物ターミナルを訪れたことがありますが、所狭しと貨物が置かれており、雨の日は貨物が濡れないのかと心配になる光景を目にしました。特に日本の主要産業である半導体製造装置の輸出は金額ベースにて35%を成田空港が占めています。成田空港の開港当時は産業として成り立っていなかった半導体製造装置までを扱うには、設備が不十分と感じます。
そのため、ワンターミナル構想では、空港敷地の北東側の移転を計画しています。
この狙いとしては、①トラックの出入りが容易となる高速道路へ隣接させることや②空港敷地外への更なる拡張を可能とさせるレイアウトがあると考えます。特に、②空港敷地外への更なる拡張については、必ずしも成田空港敷地内に設置する必要のない施設は、空港敷地外に設けることで、将来の産業の変化に対して余裕を持たせることが可能になると考えます。
羽田空港との棲み分けの明確化
提言の中では、成田空港の将来像について触れられていました。主に下記の4点が挙げられます。
- エアラインのアライアンス(航空連合)にこだわらない乗継需要の獲得
- 中規模都市への新規就航
- LCCの更なる拡大
- 航空貨物の取り扱い拡大
この将来像は、同じ首都圏に所在する羽田空港を意識しているものと考えられます。羽田空港の再国際化により、欧米の主要路線は羽田空港にシフトしました。特に衝撃をもたらしたのは、スカイチームに所属するデルタ航空です。デルタ航空はノースウエスト航空と経営統合し、成田空港に多く就航していたノースウエスト航空の路線を引き継ぎ、一時期は成田空港に出発前の時間を過ごすラウンジや機体整備用の格納庫を持っていました。これは、自国以外では珍しいことです。しかし、羽田空港の再国際化により成田空港からは完全に撤退してしまいました。同様に、ANAやJALにおいても、コロナ禍前はロンドン、パリなどの欧州路線は成田発着もしくは羽田・成田発着としていましたが、アフターコロナの路線復活時は羽田のみとしているケースが多々あります。
そのため、成田空港は欧米主要路線よりも、中規模都市への路線拡大を狙っています。その結果、エアラインのアライアンスに拘らない乗継需要が生まれると予想しています。例えば、JAL系LCCであるZIP AIRを利用しロサンゼルス国際空港から成田国際空港@第一旅客ターミナルへ到着し、JAL国内線を利用するために第二旅客ターミナルへ移動し国内移動するようなケースが増えると予想します。ターミナル間が離れている現状のレイアウトでは時間が多くかかりますが、ワンターミナルであれば移動は容易になります。
同様に、LCC各社によるA321LRの導入により、東南アジアへの国際線に単通路機が運用されるケースでは、北米からはANAやJALを利用して成田空港へ到着しつつ、日本国内には入国せずにJet StarやPeachを利用しアジア圏へ乗り継ぐ需要も今後は増えると予想します。その場合、第一旅客ターミナル・第二旅客ターミナルから第三旅客ターミナルへの移動距離が長いことから、利便性においては韓国・仁川国際空港、香港国際空港、台湾・桃園国際空港に対し大きく劣ると考えます。
よって、羽田空港は東京の玄関として入出国する旅行者を対象とする一方、成田空港は乗継を行う旅行者を対象とする戦略をとることが読み取れます。
私自身、成田空港および羽田空港の利用は、運賃、行き先、出発・到着時間に基づいて判断していますが、乗り継ぎ需要の獲得へ戦略をシフトする成田空港の利用が減り、羽田空港の利用がますます増えるのではないかと考えます。
いずれにしても、ワンターミナル構想が具体化するのか、引き続き、情報を注視したいと思います。
とても参考になりますよ個人的な妄想の類ですけど成田空港の第三滑走路周辺地域にも旅客ターミナルは必要になると思いますし、滑走路も第四や第五やひょっとしたら第六も必要になると思いますけど。エアバスA321XLRが就航して格安航空の主力機材になればより航空機の離発着が増えますので。後、首都圏空港以外の空港の話題も教えて欲しいです
コメントありがとうございます。現在の円安ドル高は当面続く可能性があるため、インバウンド旅行の需要を賄う上では成田空港も羽田空港も更なる拡張が求められますね。