2023年5月2日、JAL(日本航空)は13年ぶりとなる貨物専用機B767-300ERF(フレイター)を3機導入することを発表しました。この3機は2023年度末から東アジアを中心とした国際線にて運行し始め、事業環境によっては国内線での使用も想定しています。下記URLはJALのプレスリリースです。
https://press.jal.co.jp/ja/release/202305/007376.html
一方、JALは2022年1月21日付にてヤマトホールディングス株式会社と共同で、JALグループ会社であるジェットスタージャパンの運航によって、A321P2F(フレイター)を3機運行することも発表しています。こちらの機体は、羽田空港・成田空港・新千歳空港・北九州空港・那覇空港の空港間にて2024年4月からの運航開始を予定しています。以下URLはJALのプレスリリースです。
https://www.yamato-hd.co.jp/news/2021/newsrelease_20220121_5.html
なぜ、JALは貨物機導入および貨物路線の拡大を進めているのでしょうか?
2010年の経営破綻時に貨物専用機を全て退役させた過去を持っており、2023年再びの貨物専用機導入に勝算はあるのでしょうか?
私自身、【勝算はある】と考えます
今回の記事では、JALが貨物専用機を全て退役させた当時の市場環境と、再導入を決めた現在の市場環境を解説した上で、【勝算がある】と判断した理由を説明します。
かつて全機退役させた貨物専用機を再び導入する理由
JALは2010年1月の経営破綻を機に、保有する貨物機を全て退役させました。この中には、2008年に導入したB767-300Fも含まれていました。JALが貨物機を手放した当時の理由は、①原油高の影響を強く受ける燃費の悪いB747-200Fの運航を取りやめたかったこと、②リーマンショックによる航空貨物需要の急減への対応の2点が挙げられます。
その後、JALは旅客機の床下貨物室を活用した輸送(ベリー)のみとし、需要が増加した時期は貨物専業エアライン(Kalitta Air カリッタ航空、等)と契約し、JAL便名を付けて飛ばす運行手法により、貨物輸送の高コスト体質を改善させる努力を行いました。
しかし、2020年に発生した新型コロナウイルスの全世界への拡大により、旅客便は運航停止を余儀なくされたことで旅客機の床下貨物室による輸送ができず、JALなどベリーに強みを持つエアラインは貨物輸送において困難な状況となりました。
一方、コロナ禍にて大きく売上を伸ばしたのは、貨物専用機を持つエアラインでした。同じ日本国内であれば、ANAは貨物専用機を11機保有していたことから、北米や東南アジアなどの各地へ臨機応変に運行を行っていました。海外であれば、韓国・大韓航空が貨物輸送に力を入れていたことから、コロナ禍にて旅客便の売上減を貨物便が補うかたちとなりました。2010年当時であれば、コストを抑えることに注力していましたが、あらゆる選択肢や事業環境の変化が起こりうる世の中においても、企業の成長を見据え貨物専用機を導入することが有利になると判断したと考えます。
2023年3月8日付にて、日本郵船株式会社の子会社である日本貨物航空(NCA)がANAに事業譲渡されることが発表されました。日本貨物航空はB747-8Fを8機運行する貨物専業エアラインであり、今後はANAグループの一員として輸送力の増大に寄与することは容易に想像できます。以下、NCAによるプレスリリースです。
https://www.nca.aero/news/2023/news_20230308.html
過去に経営破綻をしているJALは無策の路線拡大戦略から距離を置く一方、貨物需要の取りこぼしを減らしたいと経営層が判断した背景には、NCAの動きがあったと想像されます。
貨物専用機の導入はビジネスとして成功するのか?
私の予想となりますが、【成功する・勝算がある】と考えます。
■勝算のある理由
- 中国政府によるゼロコロナ政策が終了し、中国路線が徐々に復活していること。
- 3機というスモールスタートであること(事業失敗したとしても傷口が小さくて済むこと)。
- 新規参入組(佐川急便系など)が相次いで失敗した国内線貨物路線のみではないこと。
■不安要素
- コロナウイルス感染が収束したことで貨物運賃低下(航空便・船便共に)
- 欧米諸国での金融不安再燃によるeコマースの需要減
- 旅客便回復による競争激化
貨物専用機導入のプレスリリースには、”eコマースの発展に伴う需要増”との記述がありますが、2023年5月2日付の決算発表では、2023年度業績予想では貨物郵便収入が2022年度比約23.5%減少見込みです。
これらの状況から、2023年導入の時期としては、プラスよりもマイナスの側面が大きいようにも思えますが、JALは2010年に経営破綻をして以降、堅実な経営方針を貫いています。2023年は経営破綻後の最高の売上収益(売上高)を見込んでおり、更なる企業の発展を想像した中での貨物専用機の導入であると考えます。
航空貨物の取り扱いランキングでは、大型機にて長距離便を多数運行するエアラインが上位を占める一方、JALとANAは10位以下に位置しています。JALとしては、売上高を伸ばすことで上位エアラインへ太刀打ちするのではなく、まずは3機導入によりじっくりと貨物専用機の効果を見極め、事業として成り立つ場合は更なる追加発注を行う戦略ではないかと考えます。そして、東アジア路線の次は欧米路線として、A350Fの発注も可能性としてあり得ると考えます。
貨物専用機の導入により、経営破綻後から真の回復・脱却を狙うJALの戦略に、今後も目が離せません。