夏の前、航空ファンの間では、2023年6月19日~25日にパリで開催されたエアショーにてJALがA321neoを発注するのではないかと噂が流れていました。エアラインがエアバスやボーイングといった航空機メーカーに対し発注するタイミングとしては、エアショーが絶好の機会です。なぜならば、各国の著名なエアラインが大量発注を行うことで、エアライン側は新機材導入の宣伝効果があり、航空機メーカーも機体の信頼性や人気度をアピールする効果があります。

しかしながら、8月時点でJALがA321neoを発注したという報道は出ていません。A321neoはJALにおけるB767の後継機種になるのではないかと想定されてきましたが、現時点でJALはA321neoをなぜ発注しないのか考察します。ポイントは下記の3点が発注において懸念事項であるためです。

1.納期が長い

2.プラットアンドホイットニー製(P&W)エンジンに問題が発生

3.B737-10およびNMAの動向


1.納期が長い

A321neoシリーズはエアバス単通路機にて非常に人気の高い機種です。競合機種であるB737MAXシリーズは設計不足による2度の墜落事故に伴い信頼も失墜し、同シリーズの派生型機であるB737-10などの就航の見通しが立っていません。そのため、エアライン各社は順調に営業飛行の実績を積み重ねるA321neoシリーズへの切り替えを進めています。その結果、2023年6月時点での受注機数は5,000機を超えています。単純計算、今から発注し残機数に順番待ちすると15年後となる計算となります。事実、2023年8月にA321neoを発注したキャセイパシフィック航空は”2029年までに導入完了”とCEOが発言しています。(※2029年完納は納期問題ではなくエアライン側の戦略の可能性もあります。)

Cathay Pacific ホームページより

A321neo型機の受注~納入機数

受注機数納入済機数受注残機数納入機数
(2022年実績)
5,0341,0783,956264
一般財団法人 日本航空機開発協会

急いでA321neoを発注したとしても2020年代後半になることは確実であることから、JALはA321neoの発注を行わないと考えられます。


2.P&W製エンジンに問題が発生

A321neoでは2種類のエンジンを選択可能です。1つ目はCFMI社のLEAP-1A、2つ目はプラットアンドホイットニー社のPW1100G-JMです。その中で、2つ目のプラットアンドホイットニー社製エンジンのサプライチェーンに問題が発生し、部品供給が追い付いていないことが報道されています。確かに、2023年7月に羽田空港内にはエンジンが取り外されたANAのA320neoおよびA321neoが3機ほど駐機している様子を目撃しました。通常であれば格納庫でエンジンを乗せ換えて作業完了となるはずが、エンジンが取り付けられていない機体が屋外に駐機されている状況から、相当のサプライチェーンの混乱が発生していると見受けられます。この状況は、かつてのB787型機のロールスロイス社製エンジンの問題を思い出させます。

P&W製エンジンの問題が発生している一方、JALはP&WではなくCFMI社製エンジンを選択する可能性が高いため、本エンジンのサプライチェーン問題はあくまでも納期面の懸念に含まれると考えられます。


3.B737-10およびNMAの動向

JALは既にB737-8型機を発注しています。そのため、同型機との親和性を考えるとB737-10型機がA321neo型機よりも有利になると考えられます。しかしながら、先述の通り、B737-10型機の就航見通しが立っていない状況から、先日のB737-8型機の発注時にはB737-10型機を含めなかったと考えます。B737-10型機の就航が他エアラインによって行われたことを確認した場合、A321neo型機ではなくB737-10型機の発注が行われる可能性は高いと考えます。

ボーイング社HPより

また、ボーイング社はB787-8型機とB737-10型機の間を埋めるNMA(New-Middle-Airplane)の開発を検討しています。2017年のパリエアショーでイメージが発表され2025年就航とされていましたが、現在はB737MAXシリーズの設計問題への対応でNMAの開発は凍結されています。JALとしては、B737-10型機よりも大型のNMAがB767型機の後継機種としてふさわしいと考えているのではないかと推測します。


いずれにしても、アフターコロナによる航空需要の急増を背景に、各社は機体確保に苦労している一方、JALのように古い機体であっても丁寧に整備し長く使う戦略のエアラインにとっては自社の戦略とすり合わせながら機体を選定する時間を確保できているのではないかと思われます。

筆者としては、古い機体を長く使うことには賛成ですが、USB電源や座席の入れ替えは行ってもらい快適性は確保していただきたいところです。JALはA350-1000型機の就航を2023年後半に控えており、こちらの機内デザイン発表も待ち遠しいです。

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