2024年4月12日、為替市場では一時1ドル153円の記録的円安となりました。これは約34年ぶりの状況です。この円安により多くの外国人旅行者が来日している一方、日本から海外への旅行者にとっては厳しい状況となります。
海外旅行先でも特に、ハワイ(ホノルル)は、ドル円の為替影響だけではなく、ハワイ特有の物価高の影響もあり、ペットボトル飲料1本500円との旅行者コメントが掲載されています。
物価高に関連する事項としては、燃油サーチャージも挙げられます。ハワイ路線では、通常運賃のほかに燃油サーチャージとして往復4万円が掛かります。運賃が往復5万円だったとしても、最終的には2倍近い料金を支払う必要があるのです。
そのため、X(旧Twitter)の航空マニア界では、”ANAのA380型機の機内がガラガラだった”というポストが話題となっています。確かにANAのA380型機は3機が運航されており、成田↔ホノルル線のみに就航しています。そのため、観光需要がメインの同路線においては、円安や物価高などの旅行者動向は同路線の収益性に直結します。
今回の記事では、ANA A380型機の将来性を予想してみます。
そもそもANAはなぜA380型機を購入したのか?
2016年1月、ANAはA380-800型機を3機発注しました。この時、ANAは発注理由に、ホノルル線の供給量増加によるJALからのシェア奪取を挙げていました。座席供給量を1.5倍に増加させることで、富裕層から特典航空券利用者まで幅広い旅行者を獲得できると意気込んでいました。
一方、航空マニアなどからは、経営破綻したスカイマークの救済措置としてエアバス社からA380型機の発注に圧力をかけられたのではないか?との噂が出回っていました。これについては、ANA公式発表では否定しています。事実、スカイマークが発注しほぼ完成していた機体はエミレーツ航空が引き取っています。
ANAは発注したA380型機の初号機を2019年に受領し成田・ホノルル線に就航させましたが、直後にコロナ禍に突入し、本来の旅客便には投入できず、日本国内のチャーター便(遊覧飛行)にのみに使用していた時期がありましたが、2022年7月より成田・ホノルル線への投入を再開しました。2023年10月には、発注していた3機ともに就航を果たし、現在は成田発着のホノルル線の3往復中2往復にA380型機が使用されています。
2024年4月のホノルル線の実態は?
もともと、4月は閑散期となります。日本特有の事情となりますが、4月から社会人や学生が新年度を迎えるため旅行者が減少します。また、5月にはゴールデンウイークが控えており、わざわざ4月に海外へ旅行する人は少なくなります。よって、A380型機のような大型機を満席にするほどの需要は存在していません。
下記はANAウェブサイト上にて確認した4月後半の土曜日出発便のエコノミークラス座席指定状況です。第一印象としてかなり空いています。機体前方は座席指定料金が掛かるという状況もあり、機体後方が混んでいる状況ですが、それでもエコノミークラス全体での搭乗率は3割ほどです。
一方で、下記は同日のビジネスクラス座席指定状況です。こちらは窓側および中央の隣同士となるペアシートはすべて埋まっており、搭乗率は6割~7割の状況です。エコノミークラスよりもビジネスクラスが好調のようです。
筆者予想となりますが、円安や物価高の影響を受け、ハワイは誰でも手軽に行ける旅行先ではなくなったものの、富裕層にとっては引き続き人気であり、コロナ禍に海外旅行ができなかったニーズを満たすためにビジネスクラスが好調なのではないかと考えています。また、日本へ旅行する外国人旅行者にとっては、エコノミークラスよりもビジネスクラスに乗るケースも多々あり、人によっては米国本土からホノルルを経由して日本にやってくる方もいるかもしれません。
以下の画像は夏休み期間中のエコノミークラスの予約状況です。4月よりは埋まっていますが、ガラガラですね。やはり、円安と物価高の影響を受けているのではないかと思われます。
ANAはA380型機を他路線に投入するのか?【筆者予想】
答えはNOです。
理由一つ目はブランド戦略です。ANAはA380型機を成田・ホノルル線専用機材として発注しました。そして、機体デザインはウミガメをペイントし、愛称として”FLYING HONU”としており、ハワイ路線への意気込みが感じられます。その機体を安易に他路線へ転用することは、ハワイ路線のブランド低下にも繋がります。
理由二つ目はA380対応空港が限定されることです。A380型機は羽田空港での発着が認められていないことは有名で、仮にA380型機を国内線(羽田・新千歳空港路線、羽田・那覇空港路線、等)に就航させたくとも、認められる可能性は低いです。空港混雑による後方乱気流への管制対応、ターミナルビルでの受け入れ対応など、クリアする課題が多い状況です。
理由三つ目は機材繰りへの対応です。ANAはA380型機を3機保有していますが、もし北米路線へ就航させることになった場合、2機あれば1日1往復を設定させることができると思われます。一方、定期整備や万が一の機体不具合が発生した場合、代替機を準備する必要があり3機あれば問題ないのですが、A380型機は世界最大の旅客機となります。もし満席の状況で機材変更の必要が出た場合、仮にB777-300ER型機による代替運航することになると一部の乗客には降りて頂く必要があります。そのため、北米路線への就航可能性は低いと思われます。
一方、ロサンゼルス国際空港には多くのA380型機が就航しており、かつてはシンガポール航空が成田空港を経由地として、シンガポールとロサンゼルスを結んでいました。そのため、もしANAがA380型機を他路線へ転用する場合には、ロサンゼルス国際空港が有力候補になると見込まれます。
実際のところ、ANAはロサンゼルス国際空港へ羽田空港から1日2便、成田空港から1日1便を就航させています。需要が大きい路線につき、ホノルルよりも多くの乗客を集めることができると思われます。
ANAのフライングホヌですが、現状ではホノルル路線よりも他の北米路線へ就航させた場合のインパクトは大きいのではないかと感じます。特に、JALがA350-1000型機をニューヨークおよびシカゴ路線へ就航させましたので、期間限定でANAがA380型機をJFK路線に就航させた場合は日系エアライン同士が火花を散らす姿が見られると思います。