2023年4月6日、欧州のアイスランドエア(Icelandair)がA321neoシリーズのA321XLRを13機発注しました。この機体は同社にて長年運行されているB757の後継機種として2029年に導入予定です。同時に、A321LRのリースも予定しています。

https://www.globenewswire.com/news-release/2023/04/07/2643063/0/en/Icelandair-and-Airbus-sign-a-Memorandum-of-Understanding-for-the-purchase-of-up-to-25-Airbus-A321XLR-aircraft.html

日本国内では日本航空(JAL)がB737-8(B737MAX)を発注しましたので記憶に残っていますが、現状、B737MAXシリーズよりもA320neoシリーズの方が人気を博している状況です。特にA320neoシリーズにおいては、A320neoよりもA321neoの方が受注が多い状況です。このA321neoの受注機数はB757シリーズとB767シリーズを足してもまだ多い状況につき、世界各国にて人気であることを伺い知ることができます。

機種名受注機数
A320neoシリーズ
 内、A321neo
9,124機
内、A321neoは4,541機
B737MAXシリーズ5,743機
B757シリーズ1,049機
B767シリーズ1,392機

今回の記事では、なぜエアラインはA321neoを爆買いするのかを解説します。

ポイントは以下の4点です。

  • 航続距離がちょうど良いこと
  • 座席数がちょうど良いこと
  • ファミリーが豊富であること
  • 信頼性が高いこと

航続距離がちょうど良いこと

A321neoには3タイプあり、①A321neo:標準型、②A321LR:長距離型、③A321XLR:超長距離型です。航続距離は下記表の通りです。

機種名航続距離
A321neo5,130km
A321LR7,400km
A321XLR8,700km
B737-106,000km
B7577,200km

航続距離に関して、標準型のA321neoではB757に対抗できていませんでしたが、長距離型のA321LRでは上回ることができました。この結果、B757シリーズの後継機種としてA321LRを選定するエアラインがアイスランドエアのように増えています。

一方、ボーイング社はB737-10をB757の後継機種として宣伝している一方、航続距離はB757をカバーできていないため、航続距離の観点からA321neoシリーズに軍配が上がっています。

結果、A321neoの販売好調の理由の一つとしては、B757をちょうどカバーカバーできる航続距離を持つことが挙げられます。


座席数がちょうど良いこと

A321neo、B737-10、B757-200の座席数は下記の通りです。

機種名座席数(2クラス制) ※各エアラインの仕様による
A321neo185~220席
B737-10188~230席
B757-200200~228席

上記の表から、上記3機種はほぼ座席数が同じであることから、同じ機体サイズ感であることが分かります。一方、先のトピックに記載した航続距離に関しては、同じ座席数・機体サイズのB737やB757に対して更に遠方へ飛ぶことのできるA321neo(長距離型LR、超長距離型XLR)に軍配が上がることになります。


ファミリーが豊富であること

エアバスHPより

旅客機開発においては、標準型に対してさまざまな派生型が開発されるケースがほとんどです。例えば、A321neoは標準型であるA320neoに対する胴体延長型と定義されます。更には、A321LRはA321neoに対する長距離型となります(LRはLong Rangeの略)。同じA320neoシリーズであるもののファミリーとして様々な派生型を持つことは、路線の距離や需要に応じて機体を使い分けることができ、かつ最小限の変更コストで済ませることができるため、エアラインにとっては機体選定時の重要な項目となります。A321neoは、国内線から国際線までをカバーできる優秀なファミリーなのです。更には、同じエアバス機にはA330neo、A350、そしてA380も存在しており、これらも最小限の移行訓練にて乗務できる相互乗員資格があることから、エアラインにとっては今後の会社成長に応じて機種数を増やす・削減することも容易です。


信頼性が高いこと

エアラインにとっては偶然のトラブルを避ける傾向があります。特にA321neoの競合機種であるB737MAXシリーズは2度の墜落事故を経て3年以上飛行停止措置が取られていました。現在、B737MAXシリーズは1,000機以上がエアラインに納入されている実績およびボーイングによる機体改修により安全性は確保されています。しかし、B737-10の就航予定の目途は立っていない状況です。(ボーイング公式発表では2023年です。)

A321neoについては、A320neoの就航当時、プラット・アンド・ホイットニー製エンジン(PW1100G-JM)に問題があり、エンジン停止時に冷却時間が他機種よりも掛かったり、エンジン始動時にも他機種より5分程度多くの時間を要したりしていた。筆者自身も、ANAのA320neoに搭乗した際、ゲート到着後もシートベルトサインが消灯せず、パイロットより「エンジンの冷却に時間を要しておりしばらく着席のままお待ちください」とのアナウンスを聞いたことがあります。しかしながら、エンジン問題も現在では対策・改善が実施されており、大きな運行上の支障は出ていない状況です。

エアラインにとっては型式証明が取得できていないB737-10よりも実績のあるA321neo/LR、そして順調に開発の進むA321XLRを発注する意向は十分理解できます。


ボーイングはB737MAXの飛行停止問題が発生する前、B757の後継機種としてB797もしくはNMA(New Mid-size Airplane)と呼ばれるモデルの開発を検討していました。しかし、現在ではこの計画は白紙化されており、残念ながらB757を保有するエアラインの多くは今後もA321neoに流れることが予想されます。

個人的にはB797の登場よりもB777-Xの就航を予定通り果たすべく、社内リソースを選択・集中してもらいたい気持ちです。

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