先日、2023年3月8日、ブルームバーグにより日本航空(以下、JAL)の次期小型機選定に関するニュースが掲載されました。

ボーイング、日本航空から737MAX受注に近づく-関係者 (ブルームバーグより抜粋)

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-03-08/RR73RBT0AFB401

まだJALによるプレスリリースおよび確定発注情報はありませんが、選定が最終段階に来ていることを踏まえ、なぜB737MAXが有力視されたA320neoシリーズに対し逆転する可能性が高くなったのか解説します。

ポイントは以下の4点です。

①B737MAXはB737-800の正式な後継機種であること

②B737MAX10の開発の見通しが立ったこと

③JALは労働組合の影響力が強いこと

④欧州エアバスと米国ボーイングの政治影響力(推測)


①B737MAXはB737-800の正式な後継機種であること

現在、JALでは40機超のB737-800型機を運行しています。しかし、B737-800型機が含まれるB737NG(Next Generation)シリーズは2019年に生産を終了し、現在は後継のB737MAXシリーズへ完全移行しています。B737-800型機の後継機種はB737MAX8であり、機体サイズ・乗客数はほぼ同一となります。そのため、国内であればANAやスカイマークがB737-800型機の後継機種として既に発注済みです。

スカイマークHPより

B737-800型機の後継機種としてB737MAX8を選定するメリットとして、(1)B737-800型機の整備部品を流用できる場合がある、(2)パイロットのライセンスが共通、(3)長年のB737シリーズの運航ノウハウを活かせる(操縦、整備、機内サービス等)ことが挙げられます。特に(1)については新型コロナウイルスにより自己資金が乏しくなってしまったエアライン各社にとってコスト削減効果として現れることから、恩恵は大きいと思われます。


②B737MAX10の開発の見通しが立ったこと

ボーイングHPより

B737MAXシリーズは2度の墜落事故を経て長年、FAA(連邦航空局)により飛行停止措置が取られていましたが、2020年11月に飛行停止を解除されました。問題の発端となっていました飛行制御システムの修正は既に初就航を果たしていたB737MAX8型機に施されましたが、開発途中のB737MAX10型機は2度の墜落事故を経て考案された新たなFAAの認証プロセスを経て就航させるかどうか、米国内で大きな議論を呼び、開発中止となるかどうかギリギリの駆け引きが続いていたようです。しかし、2022年12月、B737MAX10型機はB737MAXシリーズの1機であることが正式に認められ、B737MAX8型機と同じ操縦ライセンスにて運行できることが決まりました。当初は操縦システムを変更せざるを得ないことから、操縦ライセンスも別機種扱いとなり、エアラインにとってはB737MAX8型機とB737MAX10型機をそれぞれパイロットを確保し運行する場合は多額の乗員コストが掛かります。結果として、同じB737MAXシリーズとして運行できることから、開発の見通しが立ち、2023年に入ってから相次いで発注が入っています。

日本国内ではスカイマークがB737MAX10型機を発注しています。B737MAX10型機は競合機種となるA321neo型機と同様に188 – 204席のキャパシティなります。


③JALは労働組合の影響力が強いこと

JAL HPより

先のトピックスにて、B737-800型機の後継機種としてB737MAX8型機を選定するメリットの一つに、”(2)パイロットのライセンスが共通”であることを挙げましたが、もしA320neoシリーズを選定した場合、B737-800型機を操縦するパイロットや整備士は新たにエアバス規格の講習を受け、移行訓練を受けなければなりません。しかし、パイロットの世界にも日本社会で問題視されている人手不足・高齢化の波が押し寄せており、ベテランパイロットが再びライセンスを取得し直すことは容易ではありません。そのため、労働組合の影響力の強いJAL社内では一定の反発が出ていることが予想されます。会社側としては、機体調達コストや運航コストの安価なA320neoシリーズを採用したい場合であっても、雇用に直結する労働組合との合意ができなければ運行するパイロットを確保することができません。そのため、今回の小型機選定においてはA350シリーズ採用時とは異なり、現行機種のパイロットの意見が強く取り入れられたと推測されます。


④欧州エアバスと米国ボーイングの政治影響力(推測)

筆者撮影。B737-800型機@成田国際空港

JALは大型旅客機においてはB777シリーズの後継としてA350シリーズを発注・運行しています。先に述べたように、機体メーカーを変更する場合、機体調達コストは安価になる一方で、パイロットのライセンス変更や予備部品の準備などエアラインにとっては大きな負担となります。今回のJALはその負担以上のメリットが発現することからA350シリーズの導入を決めたことになります。しかし、従来、日本国内ではボーイング製旅客機が9割以上を占めており、世界各地でも類を見ないボーイング大国でした。そのため、JALがA350シリーズを選定したことは航空業界では大きなニュースとなりました。

一方、機体発注は政治の道具として使われてしまった歴史があります。具体的にはロッキード事件です。この事件では首相が逮捕される事態となり、航空機メーカーと政治家との癒着が世間から批判されました。

現在、そのような癒着が報道されていないことから透明な取引が行われていると思われますが、新型コロナウイルスによりエアラインだけではなく、日本の航空機製造を担う各重工メーカーおよびその下請け企業も打撃を受けました。特に、三菱スペースジェットの開発中止は日本の航空機製造に暗い影を落としています。実際のところ、欧州エアバスよりも米国ボーイング向けに機体製造を担っている日本メーカーが多いことから、A320neoシリーズよりもB737MAXシリーズの方が航空機製造への恩恵が大きいと思われます。


以上、JALがB737MAXシリーズを発注する可能性に関する記事を解説しました。筆者、久しぶりにJALのB737-800型機に搭乗しましたが、ANA A321neoに比べると古さが否めない状況でした。そのため、新型機発注やレトロフィット(B737-800型機の改修)の情報を待ちたいと思います。


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