日本航空(JAL)は2023年3月23日、B737-8型機(B737MAX)を21機発注することをプレスリリースしました。筆者としては、A320neoシリーズとB737MAXシリーズのどちらになるのか注目していたところ、2023年3月上旬に”B737MAXシリーズを発注か”という報道があり、そろそろ確定発注が近いと思っていた矢先のニュースでした。
今回、JALがなぜB737-8型機(B737MAX-8型機)を選定・発注したのか解説します。
尚、主な理由としてはB737-800型機の直接の後継機種がB737-8型機であることですが、競合機種であるA320neo型機を選ばずにB737-8型機を選ぶメリットを中心に解説します。
ポイントは3点です。
①B737-800型機からB737-8型機への移行訓練が容易であること。
②B737-800型機の運航・整備に関するノウハウが生かせること。
③A320neo型機よりもB737-8型機の方が安価であること(筆者予想)
①B737-800型機からB737-8型機への移行訓練が容易であること
B737-800型機とB737-8型機の機体サイズはほぼ同一であることから、操縦特性が似せるよう開発されています。また、コックピットにおいても、B787型機の最新技術を取り入れなつつ、B737-800型機(B737NGシリーズ)からのライセンス移行を容易にできるよう、フライバイワイヤの採用や他機種で採用された操縦システムの採用は見送っています。そのため、現在JALが運航するB737-800型機のパイロットはB737-8型機への移行訓練はA320neo型機よりも容易に行うことができます。
JALはパイロットが所属する労働組合の影響力が強いため、仮にA320neo型機を導入した場合、現在B737-800型機を運行するパイロットは必ずエアバス機への移行訓練を受ける必要が出るため、B737-8型機よりも大きな労力がかかることが予想されました。そのため、組合への一定の配慮もあると考えられます。
昨年はFAAとボーイング社の間にて、B737-10型機へ新たに搭載する警報システムによって操縦ライセンスを他のB737MAXシリーズと別にするか否か激論が交わされておりましたが、操縦ライセンスの移行の容易さはエアラインの運航コストに跳ね返るため、機体メーカーにとって重要事項となっています。
今回、JALがB737-8型機を発注したことは、このFAAとボーイングとのやりとりが一件落着となったことが好影響を与えたことは間違いありません。
②B737-800型機の運航・整備に関するノウハウが生かせること
JALのプレスリリースによると、B737-800型機とB737-8型機は同じ客席数の162席としています。同じ客席数であれば、もし悪天候等による急な機材変更の場合であっても、B737-800型機とB737-8型機を入れ替えることが容易であり、B737-8型機の導入期において運行面の負担を最小化することができます。
また、JALはB737シリーズについては数十年にわたり運行しています。B737-400型機に始まり、B737-800型機、そして今回のB737-8型機へと続いており、運行に関するノウハウの蓄積は一朝一夕では行うことはできません。補足ですが、B737シリーズはB727シリーズとの親和性を持たせて開発されており、JALはB727シリーズの運航実績もありました。そのため、B737-8型機は先に述べたパイロットだけではなく、地上の旅客スタッフ・貨物スタッフ・整備スタッフ・運行マネジメントスタッフ、そして客室乗務員にとっても慣れ親しんだものであり、親しみをもってB737-8型機が受け入れられると考えられます。
③A320neo型機よりもB737-8型機の方が安価であること(筆者予想)
こちらは私見となりますが、おそらくJALはB737-8型機を導入するにあたりボーイングから大幅なディスカウント(値引き)を引き出していると考えられます。
その理由として、B737MAXシリーズは2度の墜落事故とA320neo型機の派生型であるA321neo型の躍進が受注不振につながっていることが挙げられます。
機種名 | 受注残 | 年間生産 |
B737MAXシリーズ | 4,573機 | 250機 |
A320neo型 | 2,778機 | 260機 |
A321neo型 | 3,581機 | 220機 |
上記の表は受注機数を示しています。B737MAXシリーズとA320neoシリーズでは2,000機超の受注差が出ており、A321neo型機が人気であることが分かります。B737MAXシリーズによる2度の墜落事故だけではなく、A321neo型の派生型であるA321neo-XLR型機に対抗できるモデルがB737MAXシリーズには存在しないことが、B737MAXシリーズの販売不振の主な要因であると思われます。
JALは現在運航中のB777シリーズの後継機種にA350シリーズを選定しました。JALにとってはA300シリーズ以来のエアバス機であり、B777-9の導入かと思われていた大型機選定においてA350シリーズを選んだことはボーイングにとって衝撃を与えたと思われます。そして今回の小型機選定においてもエアバス機(A320neo型機)の選定が行われるのではないかと噂されていた中で、おそらくJALに対して大幅なディスカウントが実施されたと推測します。
一方で、A320neo型機の派生型であるA321neo型機の導入可能性がゼロであるかは言えないと考えます。その理由として、今回発注されたB737-8型機は21機であり、JALが運航するB737-800型機の総数64機の33%に過ぎないためです。
いずれにしても、B737-8型機が2026年導入であることが決まったため、初就航を楽しみに待ちたいと思います。