B787型機と言えばボーイング社製の最新中型機旅客機であり、2011年にANAが世界で初めて就航さえ、国内外の多くのエアラインにて運行され、先日は米国ユナイテッド航空やサウジアラビアのエアラインより新規発注が続いている状況です。
しかし、そのような最新旅客機であってもスクラップとなる機体があるということで話題となっています。それはノルウェーのエアライン”ノルウェイジアン Norwegian Air Shuttle”にて運行されていたB787-8型の2機、VP-CVL (以前の登録はLN-LNA) and VP-CVM (以前の登録はLN-LNB)です。同社はコロナ禍に経営破綻し、事業再生計画の中で30機以上保有していたB787型機を全て手放し、小型機のB737型機のみとする決断をしました。
先ほど述べた通り、B787型機を新規発注するエアラインがあるのであれば、これら放出されるB787型機は中古機市場にてすぐに買い手がつくように思われますが、報道によると残念ながら2機のB787型機はスクラップが決定しているようです。
なぜ、最新シリーズボーイング787がスクラップになってしまうのでしょうか?
今回はこの理由を解説します。
ポイントは以下の3点です。
①重整備に多額の費用が掛かること
②機体そのものではなく部品販売の方が儲かること
③B787-8型が不人気モデルであること
順番にそれぞれのトピックスを解説します。
①重整備に多額の費用が掛かること
今回スクラップとなるNorwegian Air Shuttleの機体はロールスロイス製エンジン”トレント1000”を搭載していますが、タービンブレードの品質問題により2019年に地上待機を余儀なくされました。併せて、コロナ禍が追い打ちをかけ、約5年近く飛行していませんでした。よって、再び飛行させるには大掛かりな整備が必須となり、主に油を使用する機器(油圧機器)や電子機器の交換が必要となります。また、旅客機は約5年間を目安に重整備とよばれる大掛かりな整備を実施します。今回スクラップとなるB787型機の重整備には1機あたり$30million(約45億円)掛かると言われており、再整備し新たな買主を探すよりも使えそうな部品を回収するスクラップにした方が利益が見込まれると判断されたようです。
なぜ”部品取り”が利益率が高いのか、次のトピックにて解説します。
②機体そのものではなく部品販売の方が儲かること
エアラインが機体を運行する過程では、他の乗り物同様に部品を交換する必要が出てきます。消耗品とであるパッキンやフィルターだけではなく、滅多に交換することのない機体外装パネルや配管など様々な部品が保守部品として流通しています。これらの部品をエアラインは航空機メーカーから直接購入する場合もあれば、予め契約を結んでいる修理会社から購入する場合もあります。
航空機メーカーは機体を製造することには長けていますが、保守部品の供給体制はリードタイム・価格ともに修理会社に軍配が上がる傾向があります。なぜならば、エアラインは機体を飛ばせないと売上が発生しないため、多少交換部品が高価であっても、すぐに調達できる部品を入手したいためです。
B787型機は登場から10年ほど経過し、運行するエアラインも順調に増えています。そのため、保守部品のニーズが非常に高く、機体そのものよりも保守部品に分解し販売する方が利益が見込めると判断されました。
③B787-8型が不人気モデルであること
以下の表はB787シリーズの受注機数となります。
型式 | 受注機数 | 納入残機数 |
B787-8型 | 422機 | 36機 |
B787-9型 | 1,032機 | 452機 |
B787-10型 | 196機 | 122機 |
最も売れている機体はB787-9型であり、他の-8型,-10型を圧倒しています。更に、納入残機数(まだ納入が終わっていない機数)については今回スクラップとなるB787-8型が36機となり、残りわずかとなっています。このことから、新たにB787シリーズを発注しようとするエアラインにとって、B787-8型が最も不人気であると言わざるを得ません。理由としては、①B787シリーズの中で最も小型、②A330neoよりも割高であることが挙げられます。一般的に1機あたりの座席数が多くなればなるほど、運航コストは低減されます。そのため、B787-8型よりもB787-9型の方が運航コストが安価となります。更に、B787-8型の登場時はまだ開発中であったA330neoが現在では就航しています。ほぼ同サイズであり、エンジンもB787シリーズに搭載されるトレント1000の発展版であるトレント7000を搭載しています。よって、中古機市場にて今更ながらB787-8型のみを追加導入もしくは新規導入するエアラインはなく、不人気であると考えらます。
これらの理由により、初めてB787シリーズにてスクラップが発生することとなりますが、個人的には炭素繊維強化プラスチックのリサイクル方法や解体方法が確立されているのか気になるところです。従来のアルミ合金製の機体であればリサイクルは容易に見えますが、炭素繊維強化プラスチックとなるとどのように処分するのか、調べてみようかと思います。