先日、JAL B737-800型の後継機種について記事にしましたが、B767-300ER型の後継機種選定についても悩ましい状況です。


現在、日本国内で見かけることの多いB767シリーズは、300ER型となります。こちらはANA, JAL共に運行しており、B737-800型同様に地方路線だけではなく幹線にも投入されています。かつてはB767-300型が国内線の主力機種でしたが、1980年代後半に初就航した機体は20年を経過した時点で数を減らし、現在では完全に引退しています。また、海外に目を向けると、主に米国のエアラインにてB767-300ERを使用しているエアラインが複数あります。

ユナイテッド航空 HPより

これらエアラインが1980年代に開発されたB767シリーズを使用し続けている理由は、直接の後継機種がないためです。例えば、B737シリーズは第1世代から始まり、最新は第4世代であるMAXシリーズまで続いています。しかし、B767シリーズは1代限りとなっています。後継機種としてB787シリーズが近い存在であることから、ANA, JAL共に導入し、米国のエアラインもアメリカン航空、ユナイテッド航空は導入しました。しかし、デルタ航空はA330neoを導入しています。そのため、一概にB767シリーズの後継機種はB787シリーズと決めることはできません。(デルタ航空はA330ceoを運行していたため、この後継機種としてA330neoを導入しました)

デルタ航空 A330型

今回はB767シリーズの後継機種としてA330neoが受け入れられていない理由を検討します。

筆者の考える理由は以下の3点です。

  • B767シリーズと共通性がない
  • エンジンが選択できない
  • ダウンサイジングがトレンド

B767シリーズと共通性がない

最もA330neoを導入することに躊躇する理由です。B767はボーイング製であり、A330neoはエアバス製です。機体製造メーカーが異なると機体の操縦システムの設計思想も異なるため、パイロットは操縦ライセンスを取得し直す必要があります。もしA330ceo(ceo=current engine option、従来型)からA330neoへの操縦ライセンス移行であれば、エアバスの思想である相互乗員資格制度が大いに活かせ、1週間程度での再訓練にて乗務が可能です。しかし、ボーイングからエアバスへの移行ではそのようにはいきません。

また、メンテナンス部品についても設計思想が異なる機体同士では流用することはほぼ不可能です。例えば配管同士の接続部分に取り付けられるパッキンと呼ばれるゴム部品についても、エアバス規格とボーイング規格では型式が異なることから、寸法がほぼ同じであったとしても流用することはできません。そのため、移行時期にはコストが単純計算2機種分掛かってしまうことになります。

Air China A330-300型


エンジンが選択できないこと

A330ceoはエンジンメーカー3社から選定が可能でした。具体的には、ロールスロイス、プラットアンドホイットニー、GEです。一方で、A330neoはロールスロイスのみとなっており、他のエンジンメーカーは選定できません。エンジンメーカーを選べるメリットとして、他機種との共通性があります。先ほど操縦ライセンスやメンテナンス部品の共通性について記載しましたが、エンジンも他機種に使われているシリーズと同じメーカーや系統であれば、部品の共通化が可能なものもあります。また、整備ノウハウも伝承されるため、人的リソースの有効活用も可能です。そのため、過去にロールスロイス製エンジンを使用していなかったエアラインが新たにA330neoを導入しようとすると、エンジンメンテナンス機器や予備パーツの初期投資が多く発生することが見込まれます。そのため、エアラインにとってはエンジンメーカーを選定できないことはデメリットとなります。B767シリーズではA330ceoと同じくエンジンメーカー3社から選択可能でした。

一方で、機体メーカーにとってはエンジンによってエンジンパイロン(エンジンと機体を繋ぐ部品)やエンジンの動作をコックピットにて確認するための各種センサーをエンジンメーカーごとに準備する必要がなくなるため、開発効率がアップします。エンジンメーカーにとっても機体の受注=自社エンジンの受注に直結するため、エアラインへの販売戦略も従来よりは簡素化されると思われます。

JAL B767-300

ダウンサイジングがトレンド

新型コロナウイルスの感染拡大により人々の移動が制限されたことから、多くのエアラインでは運休を余儀なくされました。その後は感染者数の減少により運行を再開した路線もありますが、減便と増便を繰り返すことになっています。そのため、不安定な需要では大型機により大勢の乗客を乗せることは現実的ではなくなりつつあります。需要が急減した時期においては、羽田と大阪伊丹の間で運行されていた機体はB737-800型やエンブラエル機もありました。そのため、あえてB767シリーズの後継機種として大型化となるA330neoを選ぶのは慎重にならざるを得ないと言えます。

以上の理由より、日本国内だけではなく海外のエアラインにとっても、B767-300ER型の後継機種としてA330neo型が選定される可能性は低いと考えられます。


一方で、A330neoはA330ceoを更に近代化した機体となります。そのため、機体性能は高いことからエアラインによっては戦略を変更してB767シリーズの後継としてA330neoを選定する可能性もゼロではありません。その際にはぜひ搭乗したいものです。

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